1. PICO(ピコ)方式で具体的な臨床疑問を英文でノートに書く
「PICO方式で具体的な臨床疑問を設定しMeSHで英語論文のエビデンス(科学的証拠)を見つけよう!」と言うととても難しく聞こえますが、基本的には自分が疑問に思っている問題を具体的な質問として英文で書いてインターネットで検索することを表します。
これから英語論文を執筆するにはまず今までの研究で何がわかっているかに関するエビデンス(査読付きのジャーナルに発表された研究結果に基づく科学的証拠)を集めてそれを論理的な流れに沿って整理して行く必要があります。
そのために必要な作業の第一歩がこの「PICO方式で具体的な臨床疑問を設定しMeSHで英語論文のエビデンスを見つける」作業となります。
ここではまず早く図書館に行って検索を始めたいというはやる気持ちをグッと抑えて下準備から始めます。
図書館のデータベースで色々と検索する際の労力の無駄を省くためまずPICOという方式で具体的な臨床疑問を質問として英文でノートに書きます。
PICOとはPatients (患者)またはPopulation(被験者), Intervention (介入), Comparison (比較対象), Outcome(結果)の略です。
前回のポストで紹介した方法でMedical Xpressなどへ行っていくつかご興味がある最新の研究に関する文献を読んでみてご自身の中に色々な疑問が浮かんでいることと存じます。
図書館に出向く前にその疑問をPatients (患者)またはPopulation(被験者), Intervention (介入), Comparison (比較対象), Outcome(結果)に沿って具体的な英文の質問にして書くことから始めます。
例えば “Do young adults who drink energy drinks (as compared to those who don’t) have an increased risk of depression?”
「エナジードリンク(カフェインやアミノ酸などを含む清涼飲料水)を飲む若年成人(19-24 歳)は(エナジードリンクを飲まない若年成人と比べて)うつ病になる危険性が上昇するのか?」はこのPICO方式の臨床疑問です。
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | Young adults | 若年成人 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | Drinking energy drinks | エナジードリンクを飲む若年成人 |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | Young adults who don't drink energy drinks | エナジードリンクを飲まない若年成人 |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Increased risk of depression | うつ病の危険性の上昇 |
Pではどんな患者さんまたは被験者のグループが皆様の疑問の対象か考えます。
この例では19歳から24歳の若年成人(Young adults)にしていますが、これは皆様の疑問により幼児(Infants)、女性患者(Female patients)、高齢者(Aged)など様々な年齢や性別の対象者になり得ます。
Iではどのような介入が行われるかを想定します。この例では「エナジードリンクを飲むかどうか」がIの要素ですが、Iは皆様の疑問によりある特定の薬、運動方法、食生活、研修プログラムなど様々な介入方法があるでしょう。
Cは比較する対象者を表し、ここではIの「エナジードリンクを飲む若年成人グループ」と対照させるグループを考えます。
この例でCは「エナジードリンクを飲まない若年成人」になりますが皆様の疑問によりCはプラセボ群、対照群あるいはIに似通った薬、運動方法、食生活などに関係したグループになるかも知れません。
そして最後にOは得られる結果または得たい結果になります。
この例で結果は「うつ病発症の危険性の上昇」になります。
それ以外には痛みやある特定の症状の改善、何かの確率や危険性など皆様の疑問により様々でしょう。
2.色々なPICO臨床疑問の具体例
他にもいくつかPICO方式の臨床疑問の例を以下に挙げてみました。
これらを参考にまずご自身の疑問をPICO方式の臨床疑問としていくつか英文でノートに書いてみましょう。
“What is the efficacy of fluoxetine versus sertraline on depression for adults with obesity?”
「肥満成人のうつ病に対するフルオキセチンとセルトラリンの効果は?」
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | Obese adults | 肥満成人 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | Fluoxetine | フルオキセチン |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | Sertraline | セルトラリン |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Decreased levels of depression | うつ病レベルの低下 |
“Do women who take vitamin C have less severe symptoms of asthma?”
「ビタミンCを摂取している喘息の女性の症状はあまり深刻ではないのだろうか?」
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | Women with asthma | 喘息の女性 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | Vitamin C intake | ビタミンC摂取 |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | Women with asthma who DO NOT take vitamin C | ビタミンCを摂取していない喘息の女性 |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Less severe symptoms of asthma | あまり深刻ではない喘息の症状 |
“Are nurses who demonstrate higher levels of resilience less likely to burnout at work than nurses who show lower levels of resilience?”
「レジリエンス(復活力)の程度が高い看護師はレジリエンス(復活力)の程度が低い看護師に比べて職場でバーンアウトに陥る確率が低いのだろうか?」
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | Nurses who demonstrate higher levels of resilience | レジリエンス(復活力)の程度が高い看護師 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | No intervention | 介入なし |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | Nurses who demonstrate lower levels of resilience | レジリエンス(復活力)の程度が低い看護師 |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Decreased probability of falling into burnout | バーンアウトに陥る確率の低下 |
“Is classroom learning more effective than e -learning for first year undergraduate students?”
「大学の学部一年生にとって教室での学習はインターネットを使ったeラーニングより効果があるだろうか?」
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | First year undergraduate students | 大学の学部一年生 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | Classroom learning | 教室での学習 |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | e-learning | インターネットを使ったeラーニング |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Higher levels of academic performance in students | 学部一年生のより高い学業成績 |
“In patients undergoing hip arthroplasty, does genotype-guided warfarin therapy provide better anticoagulation control than conventional warfarin therapy? ”
「遺伝子型に基づくワルファリン療法は従来のワルファリン療法より股関節形成術を受けている患者のより良好な抗凝固管理に繋がるだろうか?」
P(Patients or Population) | 誰が?患者・被験者の特徴は? | Patients undergoing hip arthroplasty | 股関節形成術を受けている患者 |
---|---|---|---|
I (Intervention) | どのような介入が行われる? | Genotype-guided warfarin therapy | 遺伝子型に基づくワルファリン療法 |
C (Comparison) | Pの比較対象者は? | Conventional warfarin therapy | 従来のワルファリン療法 |
O (Outcome) | 得られる結果は? 得たい結果は? | Anticoagulation control | 抗凝固管理 |
3. MeSH(メッシュ)とは何か?
PICO方式の臨床疑問が英語で書けたらこの臨床疑問に関するエビデンスをMeSHと呼ばれるインーネット上のデータベースで検索してみましょう。
MeSHはMedical Subject Headingsの略で生命科学分野の学術文献の検索サイトPubMed(パブメド)に掲載されている文献の内容を表す適切な用語が整理されている米国国立医学図書館 (NLM)データベースです。
MeSH用語は基本的にツイッターのハッシュタグと同じような役割を果たします。
例えば以下のツイッターの投稿では #犬 #犬のある暮らし #犬のいる生活 #犬のいる幸せ #大型犬 というハッシュタグが使われています。
このハッシュタグをクリックすると一瞬の内にツイッターで犬に関する投稿を検索し、犬好きの人と繋がれるようになっていることはきっと皆様もよくご存じのことでしょう。
このハッシュタグと同じようにMeSH用語を使うとある特定の題目に関する英語論文を一瞬の内に検索することが出来ます。
MeSH用語はある特定の分野の題目の専門家と図書館の司書が手作業で用語と文献を照らし合わせて整理しています。
今のインターネット時代でも手作業で用語が整理されているとは驚きですがこれは例えばCraneという英単語は全く同じスペルですが、「ツル」を表す場合と「起重機・クレーン」を表す場合があります。
このような微妙な言葉の違いを間違いなく乗り越え、検索の精度を高めることにより正確に文献が検索できるよう人々のたゆまぬ努力の上にMeSHが成り立っているのです。
その努力のお陰でたくさんのキーワードからなる同じような題目に関する研究を的確に検索することが出来ますが、人の手による整理にはしばらく時間がかかるため最新の研究が検索できないのがMeSHの短所です。
しかし、このように時間をかけてもMeSH用語を人手をかけて整理する必要がある理由は例えば「ビタミンC」というキーワードひとつを取ってみても英語論文内で使われる用語としては以下のように驚くほどたくさんのばらつきがあるからです。
4. PICO疑問を使ってMeSHでエビデンスを探す
このデモンストレーションでは以下のPICO方式の臨床疑問を使ってMeSHでエビデンスを探します。
“Do young adults who drink energy drinks (as compared to those who don’t) have an increased risk of depression?
デモンストレーションは上のビデオで見た方がわかりやすいかも知れません。
まずMeSHのページへ行きEnergy drink*と検索してみましょう。
ここでひとつ検索のコツはEnergy drinkと書かれた英語論文もEnergy drinksと書かれた英語論文も含めて全てのエナジードリンクに関する一連の英語論文を探したい場合はEnergy drink*とアスタリスク(*)を付けて検索すると関連した英語論文の全てが検索できます。
例えばもし皆様が看護師についての文献を探していらっしゃる場合はNurs*と検索すればNurse, Nursing, Nursesと看護師に関連した題目に関する一連の英語論文が全て検索できるのでアスタリスク(*)を入れた方が効率が良いのです。
Energy drink*と検索すると次のようなページが現れEnergy DrinksがMeSHで使用されるこの題目の基本的な用語(Entry Term)となっていることがわかります。
右側の“Add to search builder”をクリックして検索グループにこの用語を挿入し “Search PubMed” をクリックします。
すると805本のエナジードリンク関連の英語論文が出てきした。
でも、ここで立ち止まらずに引き続き今度はdepressionと入れて同じように検索します。
Depressionが検索出来たら今度は“Advanced”という項目をクリックします。
すると“History and Search Details”という見出しが出てくるのでその中のActionsという項目の下の「・・・」をクリックします。
Add queryという項目をクリックしQuery BoxにDepression を入れます。
次にまた「・・・」をクリックして “Add with AND“をクリックします。
そしてQuery BoxにDepressionとEnergy Drinksの両方が入ったらこれらの2つの題目を組み合わせた検索をかけます。
するとDepressionとEnergy Drinksに関連した21の文献が出てきました。
つぎに左側の “Additional Filters”というメニューをクリックしある特定の年齢グループのみの文献が出てくるよう検索フィルターをかけます。
PICO 疑問に基づきこの例ではYoung Adult:19-24 yearsの若年成人に関心があるのでフィルターをかけてこのグループに焦点を絞ります。
すると最終的に 4本のエビデンスになりそうな英語論文が見つかりました。
いかがでしたか?ご質問やご不明な点がございましたらお気軽にご連絡下さい。