もくじ
Inclusive Languageとは?
Inclusive Language(インクルーシブ・ラングエジ)(包括語 ほうかつご)とは障害、病気、性別、人種、年齢などで人々を特徴づけない、全ての人に敬意を払う配慮がされた英文を表します。
ジャーナルの投稿規定には”Use of Inclusive Language”という見出しの下に「インクルーシブ・ラングエジを使わなければならない」と明記されていることがよくあります。
これは障害、病気、性別、人種、年齢などで人々を特徴づけない全ての人に敬意を払った配慮がうかがえる英文で論文を書かなければならないという指示です。
ただ漠然と「全ての人に敬意を払う配慮がされた英文」と言ってもピンと来ない方も多いと思いますので以下の具体例と例文を交えてご説明させて頂きます。
身体的障害 (Disabilities)
まず、身体的障害をもつ人々について記述したい場合、以下の×がついた”The disabled”と書いていた場合は「インクルーシブ・ラングエジ」に関するジャーナルの投稿規定が守られていないと見なされるでしょう。
”the”を前方に持ってきて”disabled”とくくりつけることで「障害者」と対象とする人々を「障害」で特徴づけた書き方と見なされます。
次に△の”Disabled people/patients, physically challenged people/patients”はどうでしょう?これは “the disabled”よりは許容される表現ですが 前方のdisabledが後に続くpeopleまたはpatientsを修飾しているのでやはり「障害」で人々を特徴づけている印象はまぬがれません。
一方で〇のPeople/patients with disabilitiesはどうでしょう?これはジャーナル投稿でも一般社会でも最も受け入れられる書き方です。
最も重要なポイントは”with disabilities”とプラスで障害について記述しているものの、対象者を基本的に “People”または “Patients”と呼ぶことで「障害や病気があっても基本的に皆私たちと同じ人間なんだ!」ということがさりげなくアピールできているからです。
そのため工夫して考えた”Physically challenged”より”People/patients with disabilities”の方が好まれるのです。
(1) Rather than relegating people with disabilities and their caregivers to the passive role of “end-users,” the developers of “telehealth” are encouraged to see them as “partners” and allow them to be involved in the design and implementation processes (Noel & Ellison, 2020).
障害をもつ人々や介護者を単にエンドユーザー(端末利用者)として受け身の立ち位置に追いやるのではなく、遠隔医療システムの開発者は障害をもつ人々を「開発パートナー」と位置づけ設計や実施の過程に参加してもらうようにすることが推奨される(Noel & Ellison, 2020)。
糖尿病 (Diabetes)
同様に糖尿病を患った研究参加者の記述の際も、”Diabetics”と病気で特徴づける書き方はまず避けましょう。
”Diabetes patients”という書き方も一昔前までは全く問題なく受け入れられていましたが最近はPeople/patients with diabetes(PwD)に修正するよう求められる場合もあります。
(2) Patients with diabetes (PwD) are at a four-fold increased risk of developing severe COVID-19 illness than their counterparts without diabetes (Targher et al., 2020).
糖尿病患者のCOVID-19に感染した場合の重症化リスク(危険性)は非糖尿病患者の4倍にも上る(Targher et al., 2020)。
パーキンソン病 (Parkinson's disease)
パーキンソン病の場合も同様にジャーナル出版の全体の流れとして今までは“Parkinson’s disease (PD) patients”と書く方が主流であったにも関わらず最近ではインクルーシブ・ラングエジの流れを受けてPeople/patients with Parkinson’s disease (PwPD)がよく見られるようになりました。
(3) A recent survey conducted in the United States of 1,342 people with Parkinson’s disease (PwPD) revealed that nearly half of the participants (46%) expressed their desire for continued use of telehealth even after the coronavirus pandemic; having received support/instruction for telehealth and the presence of a person(s) who could assist them with telehealth had the greatest effect on the likelihood of continued use of telehealth (Feeney et al., 2021).
アメリカ合衆国でパーキンソン病を患う1,342名を対象に最近行われたアンケート調査でほぼ半数の参加者(46%)がコロナウイルス感染症の大流行後も引き続き遠隔医療を受けることを希望していることがわかった。遠隔医療に関する説明や技術的サポートを受けたこと、遠隔医療を補佐してくれる人の存在が今後も引き続き遠隔医療を受ける尤度に最も大きな作用を示した(Feeney et al., 2021)。
認知症 (Dementia)
認知症を患う方の呼び方に関しては、ジャーナル出版の現場に限らず医療現場でも「どう呼ぶべきか?」という議論が英語圏で高まっています(Smith & Widera, 2022)。
特に認知症の患者さんを指す場合、“demented patients”と呼ぶことに抵抗を感じる医療従事者が多いのです。
これは “demented”という単語を皆様が英和辞典または英英辞典で引いてみられると実際に検証できるのですが、1番の定義は「発狂した」で2番の定義が「認知症になった」となっているからです。
つまり、”Demented”という語には歴史的に「発狂した、狂気の(insane, lunatic)」といったような否定的な意味合いが含まれているため “demented people/patients”はまず避けた方が良いでしょう。
代わりにやはり”People/patients with dementia”または研究課題によってはより具体的に “People/patients with Alzheimer’s type dementia (ATD)”の方が適切かも知れません。
(4) Despite the high risk associated with inadequate treatment of pain in older people with dementia, there is a dearth of research that addresses the severity of dementia as it relates to pain (Corbett et al., 2012).
認知症を患っている高齢者に対する不適切な疼痛治療に伴う高いリスク(危険性)とは裏腹に認知症の程度が疼痛にどのように関連するかという疑問に取り組んだ研究は不足している(Corbett et al., 2012)。
(5)A recent randomized controlled study identified the effectiveness of a new music therapy technique on mitigating the symptoms of depression and anxiety in patients with Alzheimer’s type dementia (ATD) (Guetin et al., 2009).
最近行われたランダム化比較研究で新しい音楽療法がアルツハイマー型認知症を患う患者のうつと不安の症状を和らげる効果があることが特定された(Guetin et al., 2009)。
遺伝子変異体 (Gene variant)
遺伝子変異に関する研究の場合は “Patients with X gene mutation”よりも“patients with X gene variant”の方が好まれます。
これは”mutation”という語を使うことにより患者が “mutant”つまり「ミュータント、変種」であることを連想させある意味、まるで宇宙人であるかのような印象を与えかねないため “gene variant”と呼ぶ方が倫理的にも人道的にもより適切だと考えられているからです。
(6) Patients with SMAD3 gene variant are at a higher risk of recurrent surgical treatment for Crohn’s disease (Fowler et al., 2014).
SMAD3変異体をもつクローン病の患者は再発性外科治療のリスク(危険性)が高い(Fowler et al., 2014)。
まとめ
ジャーナル出版の全体の流れは障害や病気を”with XXX”とプラスに付け足しているものの、対象者を基本的に “People”または “Patients”と呼ぶ“People/patients with XXX“と書く方向へ向かっています。
英語圏の教授の方々の中には「障害や病気があっても基本的に皆私たちと同じ人間なんだ」という医療従事者としての姿勢を学生に熱心に説きこの書き方にこだわりを持って学生の方に勧めていらっしゃる方もいるようです。
そういった方が査読者になることも十分に考えられるので“People/patients with XXX“と書くことをお勧めします。
特に誰でもオンラインで閲覧できるオープン・アクセス・ジャーナルに投稿を目指される方はインクルーシブ・ラングエジへの細心の注意が特に必要です。
インクルーシブ・ラングエジへの配慮を含めてジャーナルの投稿規定に沿った適切な英語で論文が書かれているかご心配な方はお気軽にご相談下さい。
References
Corbett, A., Husebo, B., Malcangio, M., Staniland, A., Cohen-Mansfield, J., Aarsland, D., & Ballard, C.(2012). Assessment and treatment of pain in people with dementia. Nature Reviews Neurology, 8(5), 264-274. https://doi.org/10.1038/nrneurol.2012.53
Feeney, M. P., Xu, Y., Surface, M., Shah, H., Vanegas-Arroyave, N., Chan, A. K., Delaney, E., Przedborski, S., Beck, J.C., & Alcalay, R. N. (2021). The impact of COVID-19 and social distancing on people with Parkinson’s disease: a survey study. NPJ Parkinson’s Disease, 7(1), 1-10. https://doi.org/10.1038/s41531-020-00153-8
Fowler, S. A., Ananthakrishnan, A. N., Gardet, A., Stevens, C. R., Korzenik, J. R., Sands, B. E., … & Yajnik, V. (2014). SMAD3 gene variant is a risk factor for recurrent surgery in patients with Crohn’s disease. Journal of Crohn’s and Colitis, 8(8), 845-851. https://doi.org/10.1016/j.crohns.2014.01.003
Guetin, S., Portet, F., Picot, M. C., Pommié, C., Messaoudi, M., Djabelkir, L., Olsen, A.L., Cano, M.M., & Touchon, J. (2009). Effect of music therapy on anxiety and depression in patients with Alzheimer’s type dementia: randomised, controlled study. Dementia and Geriatric Cognitive Disorders, 28(1), 36-46. https://doi.org/10.1159/000229024
Noel, K., & Ellison, B. (2020). Inclusive innovation in telehealth. NPJ Digital Medicine, 3(1), 1-3.https://doi.org/10.1038/s41746-020-0296-5
Smith, A., & Widera, E. (2022, January 10). “Demented patients”: A terminology rant. GeriPal. https://geripal.org/demented-patients-terminology-rant/
Targher, G., Mantovani, A., Wang, X. B., Yan, H. D., Sun, Q. F., Pan, K. H., Byrne, C. D., Zheng, K. I.,Chen, Y. P., Eslam, M., George, J., & Zheng, M. H. (2020). Patients with diabetes are at higher risk for severe illness from COVID-19. Diabetes and Metabolism, 46(4), 335–337. https://doi.org/10.1016/j.diabet.2020.05.001